chapter 16~ chapter 16 “鏡” ~ 母が出て行く時、私は家に居た。 「何も要らないから別れて欲しい」そう言った母に父は諦め、 「そんなに別れたいなら身ひとつで出て行け」と言った。 それから父は私のところに来て「お前はお父さんが絶対に守ってやる」と言った。 母は父が居ない時に車で身の回りの物だけ持って出た。 荷物を車に積んでいるのを私は黙って見ていたが、ふと思いついて 居間にかけてあった籐で編んである壁掛けの鏡を車のトランクにそっと入れた。 なぜ鏡を母に持たせようと思ったのか今でもよくはわからない。 でも父は母に家の物は何も持って行くなと言ったから、 母は本当に自分の服くらいしか持って出られないと思ったのだ。 私が母に黙って車に入れておけば母が持ち出した事にはならないと思った。 簡単な荷物だけ持って出て行く母が悲しかった。何かを持たせたいと思った。 荷物を降ろす時に母は鏡に気付くだろう。私が入れたという事も。 私は母を嫌いだと思っていたけれど、心から嫌っている訳ではなかったのかもしれない。 私は母を1度も引き止めなかったが、それは 母がこれで幸せになれるのと言うのなら、これでいいのだと思ったからだった。 そして父と母は私が高校3年になった頃、正式に離婚した。 姉は結婚し、家には父と私、そして兄が寮から戻ってきた。 ◆chapter 16について(日記) へ ◆chapter 17 へ |